pha著 『ひきこもらない』 感想
ある日、兄がわたしに
「すごいニートがいる」
と唐突に教えてくれた。
その人はphaと名乗る人物だった。
phaさんは京都大学を卒業後、サラリーマンとして3年間務めたが、毎日同じ場所同じ時間に出社するのに耐えられなくなり会社を退社。以後今に至るまで定職につかずにギークハウスというシェアハウスを日本各地に設立し、居場所のない人たちの拠点を増やしながら毎日のんびりと暮らしている。
ニートなのにシェアハウス?
面白い人がいるものだなと興味をもち、『ニートの歩き方』という本を買ってすぐ読んだ。
本を読んで衝撃を受けた。
そのときわたしは、働きはじめてしばらく経ち普通の人ならば慣れてもいい頃なのに、業務にも人間関係にも慣れることができず、精神的に追い詰められていた。
そんなわたしにphaさんが
働く能力なんてなくていいんだよ
人とコミュニケーションを上手く取らなくてもいいんだよ
と優しく語りかけてくれるような文章だった。
こんな社会不適合者、生きている価値ないんじゃないかと思っていたが、生きる勇気をものすごく与えてくれるような言葉の数々だった。
それからわたしはphaさんの熱狂的なファンになった。
もちろん全ての著書を読んだ。
そのphaさんが最近、新著『ひきこもらない』を出版した。
引きこもりなのにひきこもらないとは矛盾していて、なんとも惹かれるタイトルだ。
phaさんはいわゆる一般的なニートのイメージからは少しずれる。
とにかく行動的なのだ。
同じ場所でずっと生活するのが苦手なようでコロコロと住む場所を変えるし、青春18切符や深夜高速バスを使って長距離旅に突発的に出かける。
わたしも計画なく突然フラッと車中泊をしながら車で5、6時間かけて旅に出ることがある。
それはいまここの現実から逃げるための後ろ向きの短絡的な動機だ。
旅先にいるときにも、いつかくる出勤が頭にちらつき100%旅を楽しむことは絶対にできない。
これは社会人として働いていくかぎりずっと付きまとってくるだろう。
わたしの旅はとにかく仕事のイメージを振り切るため、取り憑かれたように予定をパンパンに詰め込み一日中歩き回り、その土地にしかない名物を食べに行き、景色を眺める。そして帰路につくころにはヘロヘロになり、翌日は死んだ顔で仕事をしている。
phaさんの旅の特筆する点は目的地についても特に何もしない点だ。
特別なとこに泊まらないし、ご当地の名物を食べるわけでもないし、有名な観光地に出向くわけでもない。
とにかく普段の生活を遠方の見慣れない地で再現することに徹する。
一般的な感覚でいえばせっかくきたのにもったいないという感想が大半だろう。
しかし、phaさんにとって場所を変えることこそに意味があるのだ。
見慣れない地で見慣れたチェーン店をみつけ安心する。
そうやってphaさんは二次元の地図から自分の体感としてのリアルな地図を旅を通して築いていっているのだ。
時間にゆとりのある人にしかできない旅の仕方だろう。
何もしない贅沢こそが最大の贅沢なのではないだろうか。
羨ましすぎて嫉妬してしまう。
わたしもいつかなにもストレスを感じることなく、頭を空っぽにしてぼーっと旅を楽しんでみたい。
暇な人生とけなされてもいい。
phaさんの言葉を借りるならば、人生なんて死ぬまでの暇つぶしなのだから。
著書にあったサウナと水風呂の交互浴は近いうちに是非実践したい。